福岡高等裁判所 昭和26年(う)2820号・昭26年(う)2821号・昭26年(う)2823号・昭26年(う)2824号・昭26年(う)2822号 判決
原判決の前記(一)の見解について検討するに、刑法第二百五十六条に所謂賍物は他人の犯罪行為に因り不法に領得された物件で、被害者において法律上追及することができるものを指称し、かゝる物件についてその賍物たることの情を知つて同条所定の行為をなす限りすべて賍物罪を構成するものであつて、不法領得の本犯が何人であるかは問うところでない。従つて我裁判権に服しない占領軍々人が我領土内において占領軍物資を窃取した場合その窃盜行為を我刑法上不法領得行為に該当しないとか、その窃取した占領軍物資が賍物でないということはできない。このことは恰も刑事責任無能力者が他人の財物を窃取し、または親族相盜の場合、前者において罪を構成せず、また後者においては刑を免除されるときと雖もその窃取した財物が賍物たる性質を具有し賍物罪の成否に何等の影響を及ぼすものでないのとその理を同じうするものである。けだし占領軍々人が我裁判権の及ぶ領域外にあるのは昭和二五年政令第三二四号連合国人に対する刑事々件特別措置令により我裁判権を排除したことの特別の理由によるものでその行為の本来の違法性には消長を来たすものでなく、また占領軍が自己の権力を以て賍物である占領物資を奪回し得るのも占領下にある我国の特殊関係に由来するものであつて、賍物罪の成否には何等関係がないものといわねばならない。
されば原判決が前記各事実について、占領軍々人の窃取した財物であるの故を以て賍物罪が成立しないものと判断したことの理論的根拠は是認し得ないしこの点に関する弁護人等の答弁も採用できない。また本件被告人等の不法に収受又は所持した財物が占領軍物資であることは記録上明らかであるので、これについて各構成要件を具備する限り賍物罪並に昭和二四年政令第三八九号違反罪がそれぞれ成立することは言うを俟たないし、両罪はその犯罪の構成要件に相違する点はあるけれども、本件においては一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するものと認められる。